開會挨拶する岡本英男學長と森本英香環境事務次官
年間訪日外國人數が2018年に初めて3000萬人を超え、そこで培われる交流交易は日本の地域活性化の可能性をも広げている。地球規模では、溫暖化を主原因とする災害の発生が相次ぎ、循環型社會の構築が人類共通の緊急課題となって久しい。創立120周年を迎えた東京経済大學は1月26日、「交流経済」×「地域循環共生圏」—都市発展のニューパラダイム?と題したシンポジウムを東京?國分寺の同大學キャンパスで開催した。
楊偉民中國人民政治協商會議常務委員を始めとする中國の政策実務擔當者らを招き、日本の中央官庁、地方行政責任者、有識者らと意見を交わした。環境?経済?社會の統合的向上を目指す新しい成長モデルについて、それぞれの立場から今後の多様な方向性が示された。學生、市民、研究者ら約200人が熱心に聴講した。
冒頭、岡本英男東京経済大學學長が開會挨拶し、同大學創設者で実業家の大倉喜八郎が孫文の支援者として辛亥革命を助けたエピソードに觸れ、同大學と中國との深い結びつきを紹介。日中両國の発展にとってプラスになる事業を今後も進め「狹い學問、學內だけに閉じ込もらず行政官そして民間企業とも広く連攜したい」と表明した。
森本英香環境事務次官は、地球溫暖化、保護主義、情報化?グローバル化を今の時代の3大不安定要因とし、新しい安定を見出す必要性を述べた上で「地域の資源、文化、人材を活かした交流が必要だ。日中雙方の有識者の交流で新しい視點、アイディア、そして未來が生まれる」とシンポジウムの議論に期待した。
基調講演をする楊偉民氏と中井徳太郎氏
基調講演では、八年ぶりに來日した楊氏が、「巨大な中國、多様性のある中國における空間発展」をテーマに、中國政府が推進する「生態文明」の概念と、今後の発展の道筋について説明した。「中國は、空間の特徴と生態バランスにおける各地域の役割に配慮し、均一的発展モデルを取りやめ、発展すべきところは発展、保護すべきところは保護する考えで“主體功能區”政策に取り組んでいる」と紹介し、中國の目指す空間構造について展望した。
中井徳太郎環境省総合環境政策統括官は、昨年4月に閣議決定した第5次環境基本計畫が、環境だけでなく経済、社會を含め統合的に課題解決を図るビジョンだと説明。具體的には、「自然の恵み、森里川海を見つめ直し、地域の住民、自治體政府、金融、建設など各業界が協力して新技術を活用し、豊かな食、水、空気を確保する。そうした地域資源利用により地産地消を進め、さらに他地域とも連攜することがビジネスにもつながる。草の根の國民運動として広げることで、コミュニテイが出來、災害に強いエコシステムが成り立ち、高齢化にも対応できる」と力説した。
「交流経済」をテーマとしたセッション1では、司會の周牧之同大學経済學部教授が、自ら責任者として開発し日中両國で出版した「中國都市総合発展指標」(日本語版は「中國都市ランキング」)を使い、1980年代以降今日までの日本、中國そして世界で、大都市に人口が急激に集中した現象を分析。グローバリゼーションと交流交易経済に最も適した場所として成長を謳歌しているのが、日本では東京大都市圏、中國では長江デルタ、珠江デルタ、京津冀の三大メガロポリスだと指摘した。
問題提起する周牧之教授
また、周教授は日本と中國で経済成長を実現させた要因が共に「輸出及び都市化の進展」であったとした上で、従來の製造業に代わってリーディング産業として臺頭したIT業界を事例に解説。中國では、香港、上海、深圳の三つのメインボードに上場するIT関連企業の94%が、TOPランキング30都市に集中して立地している。都市のIT輻射力は、空港、海外旅行客數、國際會議數はもちろん、科學技術、ホテル?飲食、高等教育などの輻射力との相関係數が高く、グローバル化を進め、人材、資金、生活レベルを不斷に高める都市に集中する。日本のIT業界もほぼ同じ様相を見せている。「日本と比べて中國の都市は、市街地の面積が拡大しても都市人口はさほど増えていない。またCO2排出量が膨らみ、環境を著しく悪化させた點で、ロークオリティ成長であった」とし、環境、経済、社會が共に発展するハイクオリティな成長を目指すための方向性について問題提起した。
これを受けて、前田泰宏中小企業庁次長は、一人ひとりが我が事として環境問題を捉える事が重要であるとし、「日本人も中國人も現在最もお金を払うのはストレス解消への投資だ。自らの生きる環境を改善する事こそが生きる意欲に繋がり、またSDGsの実現に繋がる」と呼びかけた。街づくりの改善で人の往來を増やしたイタリア?ベネチアや東京?谷中の取り組みを事例に、「観光客ら訪問人口の回転率を増やす事で、人口減による経済の落ち込みも補える。交流経済の質の向上が欠かせない」と述べた。
次いで元IMF理事の小手川大助キャノングローバル戦略研究所研究主幹が、世界でいま海外観光客の最も多い都市はフランスのパリで、その數が年間8000萬人である事に比べると、「日本の3000萬人はまだ少ない。人口から見ても中國や他の新興國にはまだ圧倒的な成長の余力と市場がある」と述べた。健康食品事業に攜わった自らの経験を紹介しながら、「新たな時代の経済成長には新しい製品作りや、それに伴う海外との共同投資、共同研究の拡がりが必須だ」とし、來日時の一人當たり観光消費額がいま最も多いロシアなどへの日本ビザ発給の緩和で、海外との交流交易が一層進展するよう期待した。
元中國國家統計局長の邱暁華マカオ都市大學経済研究所所長は、中國経済が生産主導から消費主導へ移向する新常態にあ るとし、「中國経済の最も大きな変化は、中間層の拡大による消費動向の変化だ」と説明した。健康、娯楽、文化など新しい需要の拡大が経済を牽引していくに當たり、対外的には一層開放し、國內的には「製品開発などの分野で研究及び経営努力を奨勵すべきだ」と述べた。
続いて、周教授が指標データを使い、西暦2000年以降の東京大都市圏と北京の都市のパフォーマンスを比較した。北京は東京と比べて都市面積が1.2倍、人口が6割、一人當たりGDPは同半分まで追いついたものの、一人當たりCO2排出量は同2.1倍、単位當たりエネルギー消費が同4.7倍に及んだ現狀を提示。環境への配慮が都市づくりの今日の最重要課題であるとした上で、さらに東京が、海外観光客數で北京の5.6倍、國際會議開催數で同17.4倍、國際評価トップレストラン數で同10倍と、開放性でも差を広げたことに觸れ、「東京は、観光、娯楽、仕事、衣食住全般で訪れる人の多目的行動を満足させ、加えて交流経済のシンボルであるIT輻射力も集中していることから、交流経済の場として極めて秀でた」と分析した。
セッション1のパネリストの前田泰宏氏、小手川大助氏、邱暁華氏
この分析を受けて、前田氏は、「人がITツールを用い、様々なライフスタイルを分割所有できる時代になった。求心力のある人物が色々な地域に住んで交流し、発信し、仕事をする。そうした人をベースにさらに人が集まるような交流経済が量を増やす」と述べた。小手川氏は、東京そして日本の役割を展望し、「貿易、軍事、ITの3つが、米中間の大問題となっている中、日本は、中國への理解を米國に促すなど、米中関係をつなぐ橋渡し役を務めることが肝心だ」と訴えた。また、中國に対して、「経済発展のポテンシャルを大きく持つにもかかわらず、金融面が內向きに閉じている國內の現狀を改善してほしい」と投げかけた。邱氏は、「交流交易はすなわち人と人との関係構築である」と述べ、大陸、香港、臺灣、マカオを含めると約1500萬人もの華人が日本を訪れている一方、日本人の中國渡航が未だ少ない実情を取り上げ、「百聞は一見に如かずだ。実際に訪れてみる事で、中國への認識と実情との隔たりを埋められる。一方通行でない交流交易を進めるためにも、大勢の日本人の中國訪問を歓迎したい」と呼びかけた。
セッション2に登壇する尾崎寛直氏、和田篤也氏、小林一美氏、張仲梁氏。
周教授は、「多様性と開放こそが交流経済の必要條件」とし、マサチューセッツ工科大學(MIT)に赴任していた2007年當時、エネルギー革命に向けてMITが世界中から國籍、出身、背景の異なるエネルギーの専門家をハイスピードで集めたことを目の當たりにした経験を紹介、「MIT自體に大きな魅力があったからこそ人材が集まった。多様性と開放に加えて、都市も拠點も個人も、自分自身を魅力ある存在として高めていくことが、交流経済を形作る」と総括した。
「地域循環共生圏」がテーマのセッション2では、司會の尾崎寛直同大學準教授が、「地域が自らもつ風土、食、文化を売りにし、イノベーションを続け、外の社會に繋がりグローバルに繋がることを、どう引っ張るのか」と問題提起した。
和田篤也環境省大臣官房政策立案総括審議官は、グローバルリスクである地球溫暖化問題の、50年後100年後を見據えた解決構想として、環境省が描いた大絵図を示しながら説明。地域循環共生圏について、「住民が自分たちの目線でオーダーメードの計畫を作り、自律分散型再生可能エネルギーシステムの構築、防災、観光、交通、健康など様々な分野で、獨自のビジネスを行う。資源?資金?人の循環と自然との共生をコンセプトにし、得意不得意分野を他地域とのネットワークで補い、技術で支えることを目指す。そうしたステージに今後入っていく」と展望した。
神奈川県橫浜市は、2015年のパリ協定、國連の持続可能な開発目標SDGsを受け、日本の大都市としては初めて地球溫暖化対策実行計畫「Zero Carbon Yokohama」を掲げ、街づくりに取り組んでいる。同市の小林一美副市長は、「地域循環共生圏」の大都市モデルの事例を紹介。具體的には、持続可能なライフスタイルを子供達に伝えるエコスクールの開催、新橫浜一帯に集積するIT企業と連攜した次世代のエネルギー自給システムの構築、小?中學校での蓄電池設置による災害時非常用電源の確保など「モデル活動を相次いで実施し、CO2削減を具體的に示している。これを継続して行うことが大事だ」と述べた。また、再生可能エネルギーに関する橫浜市と東北の自治體との取り組みを紹介し、國や他の自治體との防災、福祉、教育面での実踐的連攜の重要性に言及。橫浜市が石油精製、火力発電などいわばCO2排出産業に稅収、雇用とも支えられている実情のなかで、「脫炭素経済に向けてどう新しい産業構造や市民社會を作っていくか、また、稅金を環境対策にどう回すかが課題だ」と述べた。
中國國家統計局元司長の張仲梁南開大學教授は、京津冀メガロポリスを事例に中國の現狀について説明した。同メガロポリスは北京、天津といった巨大で近代的な都市がある一方、周辺の河北省は経済的に遅れを取っている。「北京や天津からの経済的な波及効果が望めないことにより河北省は鉄鋼産業に特化し、深刻な大気汚染を発生させた。結果、北京にも多大な環境被害をもたらした」とし、メガロポリスの発展が中國都市化政策の基本となっている中で、今後目指すべきは「メガロポリス內部の協調発展である」と力説した。
橫浜など大都市と比べ人口や財源が少ない小さな自治體の現狀をどう考えるかについて、和田氏は「地域循環共生圏の芽が小さな自治體にも様々出ている」とした上で、「共生圏を支える地域の人材育成を図るため、プラットフォーム作りを環境省で立ち上げる」と宣言した。
海外との交流激増の時代に即した都市作りに関しては、小林氏が「魅力ある街、環境に配慮した街作りをすれば、観光客が來る。企業が來て、雇用も増え、稅収も増す良い循環ができる。そうした循環と、従來から市を支えて來た基幹産業との関係作りを、市民とともに考える。脫炭素を目指す動きを提示しながら課題解決に向けて、國と連攜して実施していく」と決意を述べた。小林氏はまた、20年前に実施したゴミ削減30%運動により、當初予想の半分の年月で目標を超える43%削減を実現し、ゴミ焼卻工場を二カ所閉鎖、年間20億円のコスト削減と、大きな成果をあげた橫浜市の事例を紹介、「のべ1萬回に及ぶ住民説明會を開き、市民や企業がゴミ問題を我が事として行動するようになった。私たちはできる、という意識が結果に繋がった」と振り返った。
張氏は、「中國での環境政策に攜わる仲間が、海外の実情から學び、國內の取り組みに生かしている。中國人の海外渡航が増え、実際の交流から優れた思考を受け入れることが、変革をもたらしている」と力説、和田氏も「交流がキーワードだ。交流を契機にプロジェクトを作り、地域の銀行と手をつないで財源不足を補い、現場に密著した技術を導入するアプローチで、動き出すことができる」と強調した。
懇親會での交流
シンポジウム終了後は、日中雙方のパネリストを囲み、參加者による懇親會が開かれた。
席上、楊偉民氏は、「私の仕事は生態環境保護につながりのあるものが増えた。本日のシンポジウム參加で、人と人との交流を増やしたいと思った。自分のふるさと、そして世界を美しいものにして行きましょう」と呼びかけた。元環境事務次官の南川秀樹日本環境衛生センター理事長は、「日中が世界の環境政策をリードする時代が來る」と展望し、乾杯の挨拶をした。
歓談に次いで挨拶した大西隆豊橋技術科學大學學長は、「中國で大都市の時代が幕開けた約20年前に出會って以來のお付き合いの楊さんの話しを聞きたいと駆けつけた」と歓迎し、環境、グローバリゼーション、都市化の課題への日中間協力の重要性を述べた。西正典元防衛次官は、シンポジウムの席上議論された「米中関係の通訳として日本が役割を果たす」意義に改めて言及し、日中合作の進展に期待した。駐日中國大使館を代表して阮湘平公使參事官が、「生態文明重視を掲げる中國と日本との環境保護の面での交流を続けて行きましょう」と述べた。橫山禎徳東京大學EMP特任教授は、「交流経済は観光客だけでなく、日常で人が行き來できるようになると一層効果が上がる」と提起し、小島明政策研究大學院大學理事は、環境問題解決は日中共同のミッションであり、「パッション(情熱)とアクション(行動)で共同作業していこう」と続けた。
シンポジウムで分析資料として多用された中國都市総合発展指標の日本語版『中國都市ランキング』の出版元、NTT出版の長谷部敏治社長は、周教授が責任者となって日中共同で開発した同書の內容について、「中國の都市分析に留まらず、東京大都市圏を始め日本の都市の分析を盛り込んでいる」と、アピールした。前多俊宏エムティーアイ社長は、「中國と日本の人と人との交流から生まれるものの大きさを実感した」と、シンポジウムの成功を祝った。
閉會挨拶に立った周教授は、楊氏、中井氏とともに肩を並べて立ち「私たち3人は義兄弟と言ってもいいほど大切な仲間。20年間度々顔を合わせ、大きな問題について膝付き合わせて議論し合い、実踐してきた」と力説、環境、経済、社會問題の統合的解決の土臺は個人と個人の交流にこそある、と述べて會を締めくくった。関口和代同大學教授が総合司會を務めた。
「中國網日本語版(チャイナネット)」2019年1月31日