◆解説
陳凱歌監督が初めて現代の北京を撮った作品?!阂喭鮿e妃/さらば、わが愛』のカンヌ映畫祭パルムドール受賞以來、気負いばかりが強すぎて作品的には今ひとつだった監督が、肩の力を抜いて撮ったのは、一見、人と人との絆を強調したヒューマンな人間ドラマだが、そこは陳凱歌監督、そう単純な見かけ通りの映畫ではない。
登場人物の姿は中國の急速な発展が人々にどんな変化をもたらしたかを浮き彫りにしている。子どもに音楽を習わせる親は情操教育のためではなく、子どもの立身出世に自分たちの將來の安定を賭けて必死だし、若い女性は消費社會で物質的要求を満たすために體をはっている。古いタイプの知識人や蕓術家は時代に取り殘され、時代に上手くのれた人間だけが豊かな生活を保証される。そんな社會だからこそ、リウのような無私無欲の人間の存在が心を打つ。陳凱歌監督は冷徹なまでに北京の今を描き出し、批判の目を向けている。そして、その批判は他人だけではなく自分自身にも向けられ、登場人物の中で最も功利的で偽善的な人物、ユイ教授を自ら演じている。
私が驚いたのは、ユイ教授が成功した弟子に言う次のセリフだ。
これはまさに監督が自分自身に対して言っているセリフではないだろうか。実際、來日した監督はインタヴュアーに「自分も世間から見れば成功した人間の一人。だから自戒の念をこめて、この役を演じた」と答えていた。私は監督の処女作『黃色い大地』に感動して、中國映畫に魅せられたので、個人的には今でも監督のベスト3はこれと、『大閲兵』『子供たちの王様』のアメリカに行く前の初期3部作だと思っている。だから、『北京ヴァイオリン』を見て、久しぶりに「ああ、私の好きな監督が戻ってきたな」と嬉しかった。これからも中國の現実から目を背けず、バジェットは小さくとも、本當に自分の撮りたい物を撮り続けていってほしいと思う。