通帳をATMに入れるとカタカタと音が鳴って100萬円の入金が記帳され、里子は數年間の結婚生活が完全に終わったことを知る。
里子は証券會社に勤めているが、今は會社も景気がよくない。夏と冬の2階のボーナスもここ數年は少なくなっているが、仕事がある分、生活に負擔はない。
日本は男性中心の社會だが、離婚は新しい世代の日本人女性にとって驚くことでもなくなった。社會は離婚した人を寛容に受け入れてくれる。里子は結婚後、仕事も辭めなかったし、夫の姓も名乗らなかった。離婚しても籍を夫のところから移すだけだ。
小さい頃、里子は両親のけんかをよく耳にし、父親が外に「事情」があることに母親が悩んでいることに薄々気づいていた。里子の母親は近所でも有名な美人で、裕福な家庭の令嬢でもあった。一方、父親は農村から東京の大學に出てきた田舎者で、母親を射止めたこと事體、當時としては幸運なことだった。しかしお金と地位を得ると人が変わった。
ただ、どんなことがあっても母親が父親や自分、妹を見捨てないことは里子にはわかっていた。母親は晩御飯を作って里子と妹に食べさせた後、深夜に帰宅する父親を待って一緒に食事を摂った。毎日その繰り返しだった。父親は戻ってくると常に酒臭かったが、お茶漬けはすすり、夫婦で食事をしながら會話をしていた。母親はたまに娘に愚癡をこぼしたが、夫の前では何もいわなかった。