■中國牽制を意図
だが「ドジョウ首相」の「控え目有効期間」がこれほど短いとは思わなかった。各方面がまだ「靜観」を続けていた就任わずか2カ月後、野田首相はタカ派の本性を抑えきれず露わにした。これは自衛隊への訓示「戦を忘るれば必ず危し」にも、「価値観外交」の積極的な推進にも、南中國海紛爭への介入などの動きにも現われている。
特に米國が現在主導する環太平洋経済連攜協定(TPP)交渉に対して、野田首相は黨內外の合意を得ぬまま、矢も楯もたまらずホワイトハウスの主人に交渉參加の意思を伝えた。経済的利益や「総合的國益」を検討した結果というよりも、地政學と安保戦略に基づくものと言った方がいい。
野田首相は11月15日の參院予算委員會で、TPP交渉參加という自らの重大な決定を弁護するにあたり「アジア太平洋地域が自由で平和であることは、結果として、安全保障面で安定した環境につながる」と、その立場を明らかにしている。
ここで赤線を引くべきは、當然「安全保障」の4文字だ。
日本の大手各紙は、日本のTPP參加には中國への対抗の意図が含まれるということを、言われずともよく理解している。これを最もはっきり指摘しているのは、最大手の読売新聞かも知れない。「開國」の決斷を當局に促す同紙の社説は「TPP參加は日米同盟関係を深化させる。これによって経済?軍事大國として強大化する中國を牽制する。この點は極めて重要だ」と強調している。
同じくTPP交渉參加の得失を分析する特別記事で、三大紙の1つ毎日新聞は「公の場では口に出せないが、政府関係者は私的な場では『TPPは対中戦略の一環であり、アジア太平洋の自由貿易の枠組みを日米が主導することで中國を牽制することが目的』と聲を揃える」と明かしている。
「リベラル」を標榜する朝日新聞も似た見解だ。「TPP外交?受け身では道は開けぬ」という社説で同紙はTPP問題の真の意味について「TPPには、世界第2位の経済大國になった中國に対抗し、米國主導のルールをつくっていく狙いもある。日本外交の基軸は『日米』であり、米國との関係強化を起點にするのが順當だ。その意味で、TPPには『対中カード』という側面もある」と単刀直入に指摘している。
一方で同紙は「地球規模で経済の相互依存が深まったいま、中國抜きの経済體制はあり得ない」とも指摘。米國一辺倒の政策が日本にプラスかどうかに多少の懸念を表明した上で、日中韓の3國関係の強化やASEAN+3(日中韓)の自由貿易協定も進め、これを「対米カード」にすることを主張している。
言い換えるなら、朝日新聞は米國一辺倒の受け身から主導的立場に転じ、TPP経済圏と中國との橋渡しの役割を演じるよう提言しているのだ。
■米國にはぐっと我慢