林國本
テレビの番組で山東省出身の畫家翟さんが、畫業の半ばで、自分があこがれていた畫家ゴーギャンが人生の後期を過ごしたタヒチをひと目みたいという気持ちから一念発起して、自分の絵畫作品を売ったおカネで中古のヨットを買って、海図の見方もあまり知らない単なる「絵描き」、アーチストの身で大海原に乗り出し、七百數十日の悪戦苦闘のすえ、やっと太平洋、大西洋を渡って故郷の山東省日照市に帰港した。
私はジャーナリズムの世界に入った、まだ駆け出しの青二才の頃に日本の新聞で堀江謙一さん(73)の『太平洋ひとりぼっち』という連載を読んで、ロマンに青春を賭けた當時の堀江青年の快挙に感激したのを覚えている。しかし、當時私は中國は日本のような島國ではないので、また、ヨットとかいうスポーツも當時としては流行っていなかったので、中國ではこういう人間はなかなか現れないのではないか、と思っていた。私は堀江さんの快挙には感激したが、自分としてはバイリンガルという「大海原」でみずからの可能性を試してみることにした。人間にはいろいろなロマンがあっていいのだから。
堀江さんは大學時代にヨット部に入っていた人だからヨットに非常に詳しい人であったにちがいないが、それでも、たいへん苦労して太平洋を単獨橫斷した。その後、日本には女性で快挙に挑んだ人も2人か3人いて、私はその連載も読んでいる。