麗澤大學特任教授 三潴 正道
「三顧の禮の話を読んだとき、ちょっと話に無理があるって思った」
「何が?ちっとも無理じゃないよ」
「だって、最初に劉備が訪ねたとき、孔明は留守だったんでしょ?」
「そうだよ。で、また來るって言って帰って行ったんだ」
「私が孔明だったら、すぐ自分のほうからお城に行くわよ」
「それじゃ、臺無しだ」
「えっ、相手は殿様よ。また來るのを待つなんて失禮じゃない」
「宴會の話、思い出してよ。なぜ、突然連れてきたのか」
「それでも嫌な顔をしない場を作って---、アッそうか」
「だろ、そこまでやるの!?と思わせるのが最大のその人のPRになる」
「そういう例ってたくさんあるの?」
「あるある。司馬遷の『史記』を見てごらん」
「どんな話?」
「魏の信陵君は夷門の番人をしていた侯嬴という人が賢者だと聞いて、屋敷に招いたんだ」
「門番を招く、なんて破格の待遇ね」
「そうさ。それも馬車で自分の左に座らせて、丁重にさ」
「侯嬴さん、さぞ恐縮したでしょうね」
「ところが、途中で知り合いの肉屋に立ち寄って散々待たせたんだ」
「信陵君は文句を言わなかったの?」
「そうじゃないよ。これが侯嬴の信陵君へのお禮だよ」
「アッ、そうだわね。もうわかった」
「まだあるよ。やっぱり『史記』の中の話だ」
「面白そう!」
「孫子呉起列伝に出てくる話で、呉起は春秋時代の名將だ」
「何をしたの?」
「戦で傷ついた兵士の膿を吸ってやったんだ」
「偉いわ!なかなかできることじゃないわね」
「そしたら、兵士のお母さんが泣いたんだ」
「そりゃ、感激するわよ。うれし泣きしたのね」
「と思うだろ。悲しんだんだ」
「エッ、なぜ?」
「この子はこれであなたのために命を捧げてしまうだろう、ってさ」
「中國網日本語版(チャイナネット)」 2016年8月26日